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【前編】風力発電、福島に「世界が認めた」人材育成施設 FOMアカデミーを取材

目次

  1. FOMアカデミーとは?
  2. FOMアカデミー設立などの経緯は?
  3. GWOの認証を受けるための苦労
  4. 講義は2カ国語対応!海外からの受講生も多数
  5. トレーニングの提供で苦労されている点は?

温室効果ガスを排出しないクリーンエネルギーの一つとして、いま「洋上風力発電」に注目が集まっています。「翻訳の力で再生可能エネルギー発電を加速する」を掲げるサン・フレアでも、翻訳ニーズに対応するために専門チームを組織し、関連企業の支援に努めてきました。

今回は風車のメンテナンス技術者の育成・トレーニング施設である福島県の「FOMアカデミー」にお話を聞く機会を頂戴できましたので、施設を開設した経緯や、事業を通じて感じた海外とのギャップ、洋上風力の現状や今後の展望や思いについて教えていただきました。

記事は前編・後編の2本立てで、前編ではFOMアカデミーの概要についてご紹介させていただいた上で、FOMアカデミー創設の中心メンバーの1人である菅野辰典さんへのインタビュー内容の中から、トレーニング施設の開設の経緯などについてお届けします。

菅野辰典様
今回お話を伺った菅野辰典様
当日もすてきな笑顔で迎えてくださいました 

FOMアカデミーとは?

FOMアカデミーは福島県福島市にある風力発電専門トレーニング施設です。元々は小学校だった建物で2022年6月に開校しました。「世界風力発電機構」(GWO)の認証施設であり、メンテナンス技術者に対するGWOトレーニングを提供しています。
 
今回お話を伺った菅野さんには2023年の「WIND EXPO 風力発電展」でお会いし、当社もFOMアカデミー主催のセミナーを受講させていただいた経緯があります。では早速、インタビュー内容を紹介していきます。

FOMアカデミーの入り口
FOMアカデミーの入り口

FOMアカデミー設立などの経緯は?

サン・フレア
FOMアカデミー設立の経緯などを教えていただけますか。

菅野さん
 2016年ごろ、メガソーラーの事業でタッグを組んで一緒にビジネスをしていた誠電社(※鉄道電気設備のメンテナンスなどを手掛ける福島の企業)の社長と風力に挑戦したいという話をしたのが、そもそものきっかけです。

2017年に日本全国沿岸をすべて調べて、青森県の日本海側に小型風車を建てたところ、結果はかなり良いものでした。ただ、風況が良いところに建てた結果、建ててから数カ月で壊れてしまいました。風を調査した結果が当たったのは良かったのですが、回りすぎて壊れてしまったんです。

壊れたので風車メーカーに修理の見積をとり、その金額を見て「高い」と驚きました。その際に大型風車の方で保守業務を風車メーカーに一定期間・一括で委託する「LTSA」(長期稼働率保障契約)を知りました。「LTSA」の仕組みを知って、地元の風車を長期的にメンテナンスする仕事はいいビジネスになりそうだなと思い、事業化を進めることにしました。

さらに調べてみたところ、風車はメンテナンスが大事ですが、現状、日本ではそれができる業者が少ない。であれば、風車をメンテナンスフリーにすれば良いのですが、その方法は「メーカーにすべてをお願いする」、つまりメーカーとLTSAを結ぶというのが一番良いことが分かりました。
それなら、メンテナンスをメーカーの協力会社としてできたら面白いな、と思いました。

そこで、とある海外風車メーカーさんにどうやったら仕事できるか聞いたところ、「GWO持ってる?」と聞かれ、何のことやらさっぱりわかりませんでした。
帰って調べると国際標準規格のトレーニングのことでした。その後他の風車メーカーさん複数社にヒアリングしてもGWOについて必ず受講していないといけないというお話になり、海外情報を調べると本当に当たり前のトレーニングになっていたので、会社の社員全員でGWOを取得し2019年から風車のO&Mに参入しました。

福島県では原発事故を受けて県の電力を100%再エネで賄うというプロジェクトが2013年から始まっており、将来的には600基を超える風車が稼働する予定ですが、これに必要なトレーニングを受ける場所がない、参入したくても学ぶ場所がないという現状に「これでは地元の仕事にならない」と思い、風車メンテナンス技術者を育成するトレーニング施設を作るという発想に結びついていきました。

説明パネル
FOMのロゴは風車と風をイメージしたもの

GWOの認証を受けるための苦労

菅野さん
このトレーニングセンターをやる時に、しっかりとGWOの認証を受けようと思いました。そのためには、トレーニングのインストラクターを養成できる力量のベテランインストラクターが必要でした。しかし日本にはそうした人材がいませんでした。

いろいろと模索して、ドイツのトレーニングセンターと提携してトレーナー養成をやってもらおうとしたのですが、コロナ禍が始まりました。そこでリモートでやろうと考えたら、今度は「時差9時間の壁」がありました。

「これは無理かも」となりましたが、最終的には、時差1時間の台湾のトレーニングセンターと提携し、コロナ禍の時はリモートで研修、コロナ禍が落ち着いた後は講師の方に来日していただきました。

講義は2カ国語対応!海外からの受講生も多数

サン・フレア
現在、FOMアカデミーでの講義は日本語でされているのですか。

菅野さん
メインは日本語で、英語で受けたいという人には英語でやっており、テキストは英語版と日本語版をマルチモニタで2台教室に並べてます。日本人トレーナーの音声については、会議翻訳ツールを使用しています。

サン・フレア
現在、受講者数は年間でどれくらいなのでしょうか。またどういった方がいらっしゃるのでしょうか。

菅野さん
受講者数は年間400人位です。受講生は風車メーカーや建設EPC、建設サブコンが一番多く、メンテナンス関連業者の担当者の方の受講も多いです。まだまだ福島県外からの受講が多いですが、中でも風力発電OEMや風車メーカーさんのエンジニアの方などはやっぱり海外の方が多いです。

サン・フレア
主に地元で工事に携わる人たちが学ばれているイメージでしたが、実はそうじゃないのですね。

菅野さん
はい、実はそうじゃないのです。今、福島県内でも600基ぐらいの建設計画がありますが、新型コロナや円安の影響もあり、建設が延期になっている案件もあり、現状は建設ラッシュに入っていないのです。だから地元にはまだ仕事がないのです。

トレーニングの様子を撮影した写真
トレーニングの様子を撮影した写真も展示されていた

サン・フレア
受講者の方についてですが、元々知識のベースがある方、初心者寄りの方の割合はどの程度でしょうか。

菅野さん
半々ぐらいです。やはり建設フェーズなので、今まで風力発電とか風車に携わってない人が半分以上はいます。

トレーニングの提供で苦労されている点は?

サン・フレア
人材トレーニングの提供で、苦労されている点はありますか。

菅野さん
インストラクターを育成することが一番大変です。うちは元風車テクニシャンが3人おり、素地がしっかりした人がインストラクターになっているのでレベルを保てていますが、その3人がずっとベーシックセーフティートレーニング(BST)のインストラクターをやっていると、次のトレーニングカリキュラムが増やせません。

つまり、その3人から講座を引き継いで教える人がいないとダメなんです。一方で、ゼロから人材を育てようと思うと、1科目だけで大体5カ月は必要となってしまいます。当然、この業界や仕事内容を知らなきゃいけないですし、「OEMって何?」「WTGって何のこと?」みたいなことから始まるので、インストラクターを育成して増やすのが最も大変です。

後編に続く

後編では、事業を通して感じた海外とのギャップや、今後の展望や思いを紹介していきます。

FOMアカデミーのWebサイトはこちら

エネルギー(洋上風力発電)分野特設サイト

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